ひとくちに「クリエイター」といっても、描き出すクリエイションは色とりどり。その背景には、バッググラウンドや譲れないこだわり、そして個性がある。 私たちが愛する「あのイラスト」は、いったいどのような思考回路をたどり、どのような技術によって生み出されているのだろうか。 クリエイターたちが歩んできた人生に焦点を当て、自分好みの色でクリエイター人生を彩ってきたヒストリーを明らかにしていく連載「人生のふであと」。 今回のゲストは、かわいいギャルイラストがSNSで話題沸騰中のクリエイター・はまふぐさん。 マルチに活躍するはまふぐさんですが、実は2年前まで、イラストレーターとして生きていく計画はなかったそう。無風の時代を経験し、クリエイター活動を諦めていたはまふぐさんの人生を変えた、「ある出会い」とは——。 絵に挫折し、絵に魅了されたはまふぐさんの“ふであと”をたどっていきます。 |
私は「世界でいちばん」絵がうまい?
──── はまふぐさんといえば、かわいいギャルのイラストが印象的です。ギャルを描こうと思ったきっかけはありますか?
実は、現在のように「はまふぐといえばギャルイラスト」が定着したのは、ほんの1年前です。
それまでの私は、今の画風とはまったく違って、いわゆる設定資料集のような、キャラクターシートをよく描いていました。当時は「はまふぐといえばキャラシート」だったんです。
イメージが定着するのは、覚えてもらう意味ではいいことですが、デメリットもありました。キャラシート以外の絵をSNSにアップしても、あまり反応がよくなかったんです。
戦い方がひとつしかない状態では、いつか飽きられる日が来るかもしれない——。
そんな漠然とした不安から、新たな挑戦として始めたのが今のスタイルです。もともとJKを描くのが好きで始めたのですが、思っていた以上にみなさんからの反響が大きかった。
私の好きと、みなさんの好きが噛み合うのなら……と描き続けた結果が、今につながっています。
──── 試行錯誤があって、現在のテイストが生まれているのですね。イラストを仕事にしたいという気持ちは、以前からお持ちだったのでしょうか。
いつか絵を仕事にしようと本気で思っていたわけではありませんが、小さいころから周りにずっと絵を褒められていたので、昔から絵がうまいという自信だけはありました。根拠はありませんが、「自分は世界で一番絵がうまい」と本気で思い込んでいたほどです。
そういった経緯もあり、大学1年生の冬に、はじめて𝕏のアカウントを開設しました。これから自分が注目される未来しか見えていませんでしたね(笑)。
ただ、現実はそう甘くはなくて。何度イラストを投稿してもまったく反応が得られず、あっという間に投稿するのをやめてしまったんです。少なくとも数年前は、現在のような活動をしている想像はできていませんでした。
──── はまふぐさんにも、そうした下積み時代があったんですね……。一度イラストから離れた後、どのようにして活動を再開されたのでしょうか。
いつものように𝕏のタイムラインを見ていたら、アニメーターのはなぶしさんと、こむぎこ2000さんが、スペースを開いているのが目に入ってきたんです。
最初は、いちリスナーとしてお2人のお話を聞いていました。
しかし、話を聞いているうちに、「自分はイラストレーターとして生きていくことはないのだから、聞きにくいことを聞いてみよう」と思い立って。
質問内容はすばり、「アニメーターは稼げるのか」です。今の私だったら、絶対にできないような不躾な質問だったと思います。当時の私は失うものがなかったので、興味のままに質問することができました。
実は、突発的に投げかけたこの質問が、私をクリエイターの導くきっかけになっています。人生が、変わったのです。
イラストに夢中で内定辞退
──── 人生が変わった……というと?
さすがにお金事情はセンシティブな問題だからと、アニメーターやイラストレーターが集まるディスコードサーバーに招待していただいたんです。びっくりですよね。
第一線で活躍されている方のお話を詳しく聞けるのは、絵を描くのが大好きな私にとって本当に贅沢なことです。気が付けば、毎日のようにサーバーに顔を出すようになっていました。
サーバーにいる間は、自然とアニメーションやイラストの話になります。私は絵で生きていくことを諦めていましたが、それでもたくさんの作品や、現場の声に触れていくうちに、自分でももう一度絵を描く勇気が湧いてきて……。
それからというもの、がむしゃらに描いたものをアップし続ける日々を送るようになりました。やっぱり、絵で生きていきたかったんです。
最初こそ反応は得られませんでしたが、1枚、また1枚……と投稿を続けていたら、いつの間にか「はまふぐといったらキャラシート」と認識していただけるようになりました。
──── まさに運命的な出会いだったのですね。はじめての案件は、どのように獲得したのでしょうか。
私のキャラクターシートのイラストを見てくださった方から、依頼をいただきました。依頼の内容は、ミュージックビデオの一部分の制作です。
だから、私のクリエイター人生のはじまりは、実はアニメーターなんですよね。
あまりイラストレーターとして売れていなかった時代から、アニメーションのお仕事は継続的にいただいています。そこから少しずつ、イラストレーターとしての仕事も増えていきました。
──── 今年に大学を卒業されたばかりですよね。案件が増えたことで、クリエイターとして独立する道を選ばれたのですか?
最後の最後まで、就職するか、クリエイターとして独立するか迷っていました。
というのも、厳しい家庭といいますか、現実的な家庭で育ったこともあり、クリエイターとして生きる選択肢がなかなか現実的には思えなかったんです。
大学4年生の時点で内定はいただいていて、本来はそのまま就職していたのだと思います。それでも今、独立してイラストレーターをしているのは、絵を描くことに夢中になりすぎて内定承諾の連絡を忘れていたからです。気付いた頃には辞退扱いになっていました。
でも、それでよかったんだと思います。自分が本当にやりたいことは、クリエイターとして生きていくことだと腹落ちしたので。
自分の人生を消去法で決めない
──── 新卒でフリーランス、勇気のある決断ですね。
茨の道だとは思っていましたが、「はまふぐ」名義の仕事で生活できる程度の収入はありましたし、SNSのフォロワーも増加していたので、それほど不安はなかったように思います。
熱意だけでなく、目に見える結果が出ていたことが、私の背中を押してくれました。数字を根拠に説明したら、親を説得するのにも苦労はしませんでしたね。
意図しない形での独立ではありましたが、私はやりたいことしかできない人間なので、結果的にはなるべくしてなっているんだと思います。
──── 現在はアニメーターとイラストレーターの二足の草鞋を履いていますが、どちらに重点をおいて活動されていますか?
どちらの活動も心を込めて行っているものではありますし、それぞれの面白さ、達成感は比べることのできないものです。
ただ、「はまふぐ」ならではのものがつくり出せている方で言えば、イラストレーターだと思います。
私は「自分にしかできない仕事か」を重視しているのですが、アニメーションで唯一無二の作品をつくれている自信がないんです。
私よりもいい動きを描ける人は世の中にごまんといるなかで、自分がオンリーワンになるまでの道のりは、まだまだ遠いと感じています。
でも、イラストでは「私が担当してよかった」と思える仕事がすでにいくつもあります。自信過剰かもしれませんが、イラストだったら私にしか表現できないものがある自信があるんです。
──── 自分に自信を持つというのは、誰にでもできることではありません。はまふぐさんの場合、スランプとも無縁だったのでしょうか。
もちろん、何度もスランプを経験しました。特に2023年に開催された「Emotions」での作品は、自分史上最大のスランプのなかで描き上げた作品です。
当時は何を描いても自分の納得のいく仕上がりにならず、かと言って投げ出すわけにはいかない。毎日のように画面に向かっては、涙を流す時期でした。
スランプが原因でテーマ選定もロクにできず、とにかく苦しい時期でも描けそうな、自分が好きなものを意識して描きました。
やっとの思いで描き上げたものの、それでも不安でいっぱいだったので、もちろん自信はありません。そこで、そのとき一緒に作業電話をしていたこむぎこ2000さんに、イラストを見てもらうことにしました。
すると、返ってきた返答は「すごくいいね」。
不安でいっぱいで、自信がなかった時期だからこそ、短くも温かい言葉が沁みました。「もう少し頑張ってみよう」と、再び前向きに、創作活動に向き合えるようになりましたね。
みなさんにお披露目したときも、本当にたくさんの方から反応をいただけました。あの時に折れずに描き上げられた成功体験が、今も私の地盤になっていると思います。
一瞬も一生も美しい作品づくり
──── スランプを乗り越えたからこそ、今があるんですね。はまふぐさんが、これからのクリエイター人生で挑戦したいことはありますか。
最近は、ずっと漫画のことを考えています。
SNSで見かけた表現なのですが、イラストって「打ち上げ花火」のようなものなんです。
丹精込めて準備して打ち上げると、瞬間的に美しく爆発する。でも、美しいのは一瞬だけ。観衆の興味は、すぐに後発の花火に移ってしまいます。
賞味期限が短いという意味で、イラストと花火はよく似ています。もちろんそれゆえの美しさがあり、一瞬の輝きが楽しくてイラストを描いていましたが、最近は長く楽しんでもらえるコンテンツがつくりたくて。
漫画であれば、ドライフラワーのように、いつまでもその魅力を後世にまで残すことができます。現在はまだ構想段階で行動には移せていませんが、ゆくゆくは形にできるよう、準備を重ねているところです。
──── はまふぐさんが描く漫画、読みたいです!描きたいテーマはありますか?
「等身大なギャル」は、描きたいテーマとしてあります。
私たちのタイムラインに流れてくるギャルたちは、みんな明るく人生に前向きで、社会人にはない感性をもった姿として描かれがちです。
でも、私たちが思うほど、ギャルたちはユートピアを生きていないと思うんです。
天真爛漫だけど、人並みに悩むし、落ち込みもする。そういう等身大のギャルが表現されてもいいはずなので、私がそれを描こうじゃないか、と考えています。
この気持ちを漫画を通して、みなさんと共有できるように、とにかく試行錯誤の毎日です。
──── はまふぐさんのギャル漫画が読める日を、楽しみにしています!最後に、これからイラストレーターやアニメーターを志す方にメッセージをお願いします。
絵はもちろんですが、絵以外のことにも視野を広くもって、学び続けてみてください。
絵の勉強って、学校の勉強よりも、正解が見えづらく難しいものだと思います。だから、まずは結果が数字に表れる勉強に、一生懸命取り組んでください。そこで、腕を磨いたり、壁を越えるための攻略法を、心の引き出しにストックしておくんです。
それはきっと、あなたの今後の人生の軸になってくれるはず。絵には関係ないように思える知識が、絵に役立つ瞬間は多々ありますから。
それに、勉強を頑張れば、もし絵の仕事がうまくいかないときでも逃げ道がつくれます。逃げることを前提にしているのではなく、「いざとなったら逃げればいい」という心の余裕を持っておくということです。
私はフリーランスとして活動していますが、大きな壁にぶつかり、折れそうになる瞬間が多々ありました。
そんなときに支えてくれたのは、絵以外のコンテンツや勉強してきたことだったり、そこで得た人間関係だったりしました。
絵でご飯を食べている生活だけれど、私を構成しているのは絵だけじゃないんです。視野は広く、選択肢を常に持つことが、クリエイターにとっても人生にとっても重要だと思います。