素敵なイラストのメイキングを眺めているとき、何をしているかわからないけど、クオリティが上がり続ける謎の黄金時間、ありませんか? クリエイターは一体どんなことを意識して、どんな工程を経てイラストを完成させているのか……?みなさんも一度は、クリエイターの頭の中を覗いてみたくなったことがあるはずです。 『でみたす!』編集部は、メイキングの謎を解き明かすべく、制作過程を解説していただけるクリエイターを大捜索! オファーを受けて下さったのはXフォロワー22.3万人(25年2月現在)を誇るイラストレーター・うごんばさんです。唐突なお願いにも快く引き受けてくださり、加えて、私がいつも使用しているiPadでイラスト制作のポイントを解説していただけることになりました!なんと贅沢なことでしょうか……。 実はうごんばさん、iPadでイラストを描くのは初めてなのだそう。iPad初心者とは思えない軽やかな手捌きで、わずか1時間という短い時間の中、素敵なイラストを制作していただきました。『でみたす!』独占描き下ろしイラストを、ぜひお見逃しなく! |
初めてのiPad、使用感をチェック
──── 早速描いていただいていますが、ipadで絵を描くのは初めてだそうですね。描きごこちはいかがですか?
本当に紙に描いているような感覚で、とても面白いです!普段私が使っているのはペンタブレットなのですが、描きごこちは全く違いますね。前々から試してみたいと思っていたので、この機会にiPadで絵を描けて嬉しいです。
──── ペンタブレットとiPad、具体的にはどのような描きごこちの違いがありますか?
ペンタブレットの良い点は、「自分の手がキャンバスに被らない」点です。どうしても、アナログで描いたり、液晶に直接描いたりすると、手元の線が見えずにブレてしまうことがありました。
ペンタブレットを使えば、もちろんキャンバスが見づらいなんてことはありません。さらに、液晶を俯瞰できるので、バランスの違和感にも気づきやすいです。絵を描く時にコマンドを使いたい方なら、ペンタブレットの方が適しているかなと思います。
ただ、今日実際にiPadで描いてみて、描きごこちがアナログにとても近かったのに驚きました。今回使用させていただいたアプリは「pro create」でしたが、ブラシの種類や機能もすごく充実していました。
手軽なのにメインデバイスとしての機能も充実していて、みなさんが使う理由もわかりますね。
開始2分での試し書き。うさぎちゃんカワイイです
作品の質を上げるのは「左脳」
──── 初めて触るツールなのに、手捌きが軽快です!うごんばさんはイラストを描くとき、こだわりのポイントはありますか?
一番こだわっている部分は「顔」です。顔が決まらなければ何も決まらないと思って描いているので、必然的に顔にかける時間は多くなります。
目の位置、まつ毛の濃さ、鼻、口、と描けば描くほどこだわりが出てきて、ゲシュタルト崩壊を起こすこともしばしばです(笑)。
顔のなかでも、特にまつ毛には思い入れがあります。まつ毛は、クリエイターの個性が出るパーツながら、すごくバランスが難しくって。
引きの構図ならまつ毛は薄くなるはずだけど、存在感は消したくない……そんな葛藤のなかで、いつも試行錯誤しながら描いています。
──── まつ毛までも!パーツの細部まで作り込まれたイラストなんですね。
ついつい細部までこだわって描いてしまいますね。というのも、私自身が細部まで描き込まれているイラストが好きなんです。
昔からパーツを上手に描ける人に憧れてきたので、過去の自分の憧れのために、今の自分は一生懸命描き込むようにしています。
今日も電車で向かっている最中、乗客の服の動きや手の動きを思わず観察してしまいました(笑)。ついつい動きを捉えたくなるのは、きっと職業病なんでしょうね。
──── 昔のイラストと現在のイラストで、最も違いを実感できる部分はありますか?
色の選び方をよく考えるようになりました。今も昔も描きたいテーマは変わらないのですが、表現の道筋は大きく変わったと思います。
昔の私は、イラストのカラーラフを考えても、大枠だけ決めて、後は感覚で着色することがほとんどでした。でも、今はカラーラフをそのまま使えば作品が完成するレベルにまで作りこんでいます。
感覚だけでなく、頭で思考して色を乗せると、当たり前ですが作品のクオリティも上がっていきました。クリエイティブには左脳も必要だと知れたことが、昔の自分との一番大きな違いですね。
「スキ」が紡いだクリエイター人生
──── お話している間にイラストが出来上がってきていますね。一枚のイラストを制作するのには、どのくらい時間がかかるものなのでしょう?
ものにも寄りますが、一枚のイラストだと大体40時間かかります。日数で換算すると4日程度ですかね。
私は最後の描き込みに時間がかかるタイプなので、あれもこれもこだわりを追求しているうちに、締め切りを迎えていることが多いです。
そして、全部のパーツを細かく描くのではなく、描き込まない美しさも追求しています。例えばスーツのシワを描く時は、ざっくりと影を入れるに留めた方がシルエットが綺麗に出たりするんですよね。
ただ、いざ納品してみると、クオリティを担保するために描き込みを増やす修正がかかる時もあります。絵としての美しさと、商品としての美しさはまた別物なのだなと実感しますね。
────うごんばさんといえば泉月と聡一のイラストも大人気ですよね。この二人を描くようになったのはいつからでしょうか?
ちょうどフリーランスとしての活動を始めた頃なので、3年ほど前でしょうか。最初は私の趣味として、脳内にいたキャラクターを描きだしたのがスタートでした。個人的な楽しみだったものが、描き続けるうちに二人を「スキ」と言ってくださる方がどんどん増えていき、グッズ制作や本の出版にまで話が進んでいきました。
私自身今の活動を予想していなかったので、こんなにたくさんの挑戦ができているのはひとえにファンのみなさんのおかげです。これからもこの二人が末永く愛されるようになればいいなと思います。
────泉月と聡一を描くときにこだわっているポイントはありますか?
どんな時も顔ですね(笑)。泉月は私の「好き」を詰め込み、聡一は私の思う「かっこいい」を詰め込んだデザインにしています。二人の正反対な性格が画面にも映るように、顔も対比させて描いているんです。
まつ毛にも二人の対比があって。よくイラストを見ていただくと泉月の方がまつ毛が長いことに気づいていただけると思います。ここでも、美人さんな泉月と、涼しげで凛とした聡一の対比ができるよう工夫していますね。
独占描き下ろしイラストを大公開!
うごんばさんのイラストへの思いを伺っていると、あっという間に取材終了のお時間が……。インタビュー中とは思えない仕上がりのイラストに編集部一同感激でした(涙)。
でみたす限定描き下ろしイラストがこちら!
────わずか1時間でこんなに素敵なイラストが……!ありがとうございます!!
今回はお話していたオリジナルキャラクター・泉月と聡一を描かせていただきました。もっと時間があれば更に描き込めたのですが……。「自分まだやれます!」と皆さんにお伝えしたいです(笑)。
今回は初めてのiPadだったので、いつも使用しているペンとは違うペンでイラストを制作しました。描きごこちが全く違うので、普段描き慣れている二人でも、また少し新しい一面のある仕上がりにできたかなと思います。
持参していただいた泉月と聡一ぬい。中国のぬいぐるみメーカーの特注だそう。
普段は一人で黙々と作業しているタイプなので、作業風景を見られるのも不思議な体験でした。新しいもの尽くしで、楽しい時間でしたね。
────貴重なお時間をありがとうございました。最後に、イラストレーターを志す方へのメッセージをお願いします。
私は社会人からフリーのイラストレーターになった身ですが、イラストで生きていく決意を固めるのには、長く時間がかかりました。
だからこそ、人生の選択はゆっくり考えていいのだと思います。私の今の活動に社会人時代のスキルは間違いなく役に立っていますし、無駄だったことは一つもありませんでした。
私がイラストを描き続けられたのは、絵を描くのが体力的に辛い時期はあっても、描くことが嫌いになった日は1日もなかったから。大切なのは「好き」の気持ちを失くさないことです。
あなたらしい足どりで、クリエイティブを楽しんでください。