裏側で満たす

「自分の絵がこんな風になるなんて、想像もしていなかった」。PARCOのイラスト展示企画『浮世東京』プロデューサー柿坂氏に聞く

2025.10.31
  • 虎硬

  • 虎硬

  • でみたす!編集部

目次
INFORMATION
浮世東京 -graphical tokyo- at TOKYO PARCO
イラストレーターの作品をリデザインし、200種以上のポスターとして出力するプロジェクト『浮世東京』。既存の絵にデザイナーが手を加えるというアプローチで、イラストレーターとデザイナーの新たな関係性を提示したこの企画は、どのようにして生まれたのか。仕掛け人のプロデューサー柿坂氏に、企画の背景を聞いた。

イラストの再構築――200点のデザイン

ーー 残すところ展示も1週間となりました。浮世東京の現場には何度も行っているんですけど、池袋PARCOの階段などにずらっと掲示しているので、いつも延々と歩いて眺めています。

柿坂: ありがとうございます。本当に楽しくて往復したくなるようになっている思います。ただ、あの階段はなかなかの運動になりますよね(笑)。

池袋PARCOでのポスタージャック

ーー 早速ですが、『浮世東京』の企画について伺います。元のイラストに対して、デザイナーがかなり大胆な再構成をしていますが、これはどのように進めていたのでしょうか?

柿坂: イラストそのものに加筆修正をしてもらうことは基本的にNGにしています。ただ、ともわかさんの作品のように、もともとキャラクターと背景のレイヤーが分かれているデータを提供いただいている場合はあります。デザイナーはそのレイヤーを活かして、コラージュのように組み直していますね。

イラスト:ともわか デザイン:Kitamura Saki
イラスト:犬プール デザイン:neybell

ーー 提供されたイラストデータ(レイヤーや素材)をどう活かすか、という方向性なんですね。

柿坂: もちろんデザイナーが別途素材を用意してノイズを乗せたりといった加工はしていますが、あくまで主役は元のイラストです。そういった意味では今回は個々のデザイナーのセンスが生きましたね。キービジュアル担当のPanasony™さん、メインで動いてくれたKitamura Sakiや小池、HappA Design、rumのほか、若手のneybellさんや、付き合いの長いサワイシンゴさん、イラストレーターとしても活躍しているZ-Zさんなど、多くの才能あるクリエイターに参加してもらいました。

デザイナーへのオーダーは"自分が欲しいポスターを"

ーー デザイナーの裁量が大きい企画だったと思いますが、参加した方々の反応はいかがでしたか。

柿坂: サワイさんから「どこまでデザインして(絵をいじって)いいんですか?」と最初に聞かれたので、「ご自分が欲しいと思うポスターを作ってください」と伝えました。その結果、イラストをかなり大胆に崩したデザインが上がってきたりして。僕としては、元のイラストとの違いが大きく出る方が面白いと思っていました。

ーー 今回の企画の肝は、イラストや写真といった複数の絵を組み合わせて一枚のグラフィックデザインに昇華させている点だと感じました。

柿坂: そこは企画の核として組み込みたかった要素です。イラストレーターさんには、メインのイラストに加えて、ラフスケッチでも写真でも、関連する素材を(使うかどうかにかかわらず)提供してもらいました。それをデザイナーに委ねて、自由に構成してもらう。だから、飼い猫の写真を入れてほしいという要望に応えたものもあったりします。

ーー クリエイター同士の化学反応が生まれる設計になっているんですね。

柿坂: 面白くまとまったと思ってます。

ーー とはいえ、クリエイターにとって自分の作品に手を加えられるのは、かなりデリケートな問題だと思います。特に200人規模となると、調整も大変だったのではないでしょうか。

柿坂: おっしゃる通り、ある種の博打でした。実際に「自分の解釈と異なった」という方もいました。それはクリエイターとして当然の感情だと思います。

ーー どのように合意形成をとったのですか?

柿坂: 一つは、これまで開催してきた『EMOTIONS』などの企画を通じて築いてきたクリエイターさんとの信頼関係。そしてもう一つは、最初の段階での合意形成です。企画に参加してもらう時点で、「基本的に、一度お任せいただいたら、その後の修正依頼は受けられません。デザイナーを信頼して、上がってきたものをそのまま出させてください」ということをしっかり握った上で進めました。

ーー それで、ほとんどのクリエイターが受け入れてくれたと。

柿坂: 「自分の絵がこんな風になるなんて想像もしていなかったから、めちゃくちゃ面白い」と言ってくれる人がほとんどでした。ご本人も「こんな感じになるのおもろー」と楽しんでくれて。クリエイター自身の引き出しを広げるきっかけにもなり得ると感じています。

イラスト: 巻き貝 デザイン:Z-Z

デザイナーは本職の合間でひたすら作業

ーー 最終的には200枚の作品があり、本当に圧巻でした。大規模な企画ですが、準備期間はどれくらいだったのでしょうか?

柿坂: イラストレーターさんたちに声をかけ始めたのが4月頃なので、実質5ヶ月から半年くらいですね。

ーー R11Rの小池さんと北村さんはお一人で50枚以上担当したと聞いてます。これは普段の業務の並行で進めていたんですよね。どれも画一的でないユニークな発想で、もの凄く練られていると思いました。仕事の合間にこの量を担当しているの、もはや意味がわかりません……。

柿坂: 本当に頑張ってくれたと思います。制作の中で彼女達自身もどんどんパワーアップしていっているのを感じました。

イラスト: デザイン:小池

図録から見る、デザインの多様性

ーー 図録を見ながら、いくつか印象的だった作品について伺わせてください。例えばZ-Zさんデザインの長江春芳さんの作品。3枚のイラストの配置が大胆でした。

柿坂: これは僕も全く予想していなかったですね。全体の中で見ると、この引き算のデザインが効いている。元の絵が想像できないくらいに再構築されているものも、「元絵はどうなってるんだろう?」と作家さんに興味を持ってもらうきっかけになる。既存のイラストにもう一度スポットライトを当てる、という企画の目的にも繋がります。

イラスト:長江春芳 デザイン:Z-Z

ーー HappA Designさんが手掛けたhagiさんの作品も、額縁の外側を描き足すという不思議なアプローチでした。

柿坂: HappA Designさんは、テーマを拾って広げるのがうまいんです。イラストレーターさんから事前に「こういうテンションで描きました」といった設定やテーマをテキストでもらっているんですが、彼女はその情報を拡張してデザインに落とし込む能力が非常に高いですね。

イラスト:hagi デザイン:HappA Design

ーー るぅ1mmさんのモノクロ漫画の作品も、コマを入れ替えたりトリミングしたりと、勇気が必要なデザインだと感じました。

柿坂: かっこいいですよね。るぅ1mmさんは漫画家さんなので、そこからの着想だと思います。

イラスト:るぅ1mm デザイン:小池

ーー サワイさんが手掛けたましろかさんの作品も、元絵の宮古島の風景から、宇宙人の視点という全く別のストーリーが生まれていて驚きました。

柿坂: あれは僕もデータをもらった時、思わず声が出ました(笑)。僕がやりたかったのはこういうことなんだ、とそのまま進めました。サワイさんはこういう風に全く別のストーリーを生み出してくれるから面白いですね。

イラスト:ましろか デザイン:サワイシンゴ
コンセプト文章

ーー この図録の仕様にもこだわりを感じました。綺麗に見開きますよね。

柿坂: これは、翔泳社さんから「ポスターがページの真ん中(喉)で隠れちゃうのがもったいないから、すごく開く仕様にした方がいい」と提案してくれたんです。デザイナーの野条さんのアイデアもあって、この形になりました。

図録はどのページも綺麗に見開くようになっている

制約の中で生まれたポスター展の発想

ーー 池袋PARCOを丸ごとジャックするような展示方法も圧巻でした。特に、屋外の階段のところは、tamimoonさんのイラストとPanasony™さんのグラフィックが印象的でした。

柿坂: あのコンセプトもPanasony™さんが作ってくれたんですが、彼のグラフィックがあるだけで、一気にブランドとしての空気が生まれます。

ーー 展示の貼り方も、あえてラフにしている部分がありましたよね。きっちり貼られているものの隣に、わざと斜めに貼ってあったり。

柿坂: あれは意図的にやっています。施工は職人さんにお願いした部分もあれば、僕自身が貼った部分もあるんですが、あえて個々の裁量に任せた部分もあります。その揺らぎというか、ランダム性も作品の一部になれば面白いなと。ストリートアートの感覚に近いかもしれません。

ーー まさにコラボレーションですね。

柿坂: これはPARCOさんだからできている、というのは間違いなくあります。PARCOさんのカルチャーをちゃんと扱って大きくなってきた会社としての風土。そして、担当者の方々がみんなエンタメ好きで、僕らのやろうとしていることに最大限のリスペクトを払ってくれる。これがもし、他の百貨店だったら絶対に実現しなかったと思います。

ーー 4年目ということもあり、お互いの信頼関係も強そうですね。

柿坂: 企画自体はこれまでも手掛けていた『EMOTIONS』の流れで進んでいました。ただ、今年のPARCOが大規模な改装の時期と重なり、露出面が変わる可能性があったのです。そこで「やり方を変えないといけない」となった時に、温めていたこの『浮世東京』の企画を提案しました。ポスターであれば、色んなところに貼れるし、サイズが統一されているから展開しやすいだろう、と。

ーー この「再構築」という手法は色んなジャンルに応用できそうです。

柿坂: まさにそうですね。その実験的な試みが、以前手掛けた『アイドルマスター』の企画でした。あれは100種類以上のデザインを社内チームだけで作ったのですが、非常に反響が良かったんです。あの経験があったからこそ、『浮世東京』で200デザインという挑戦ができた。「うちのチームならやれる」という感覚がありました。

イラスト:ごった煮ス〜プ❣️ デザイン:HappA Design
イラスト:お村ヴィレッジ デザイン:rum

モチベーションはクリエイターへの"福利厚生"

ーー 先ほどのデザイナーさんの話にも繋がりますが、これだけ大規模な企画ですと手数も相当なものですよね?

柿坂: ある意味でお金目的でできないからできている部分もあるかなと(笑)。

ーー それでも、なぜ続けるんですか?

柿坂: うちの会社にパートナーとして登録してくれているクリエイターさんたちは本当に素晴らしい方々なので、皆さんの作品をより多くの人に見てもらいたい気持ちで続けてます。会社を立ち上げた当初、登録してくれたクリエイター全員に仕事をお願いできるわけではなかった。それがすごく嫌で。何か僕らと関わってくれたことへのメリットを作れないかと考えていた時に、PARCOさんと一緒に仕事をする機会ができたんです。言い方が適切かわかりませんが、福利厚生みたくできたらいいなと。

イラスト:長谷梨加 デザイン:スドウ創太

ーー 福利厚生、たしかにPARCOへの展示なんて普通は難しいですよね。

柿坂: 僕の強みである広告や施工の知識と、会社の強みであるイラストレーターのネットワークを掛け合わせれば、彼らの活躍の場を増やせると思ったんです。池袋駅直結の商業施設に、自分のイラストが1ヶ月以上飾られる。これは、クリエイターにとってかなりのアドバンテージになります。実際に、このイベントがきっかけで仕事に繋がった、という声もたくさん聞きます。

ーー それはクリエイターにとって、何より嬉しいことですね。

柿坂: もちろん、R11Rとしての宣伝にもなりますし、結果的に良い循環が生まれる。でも根っこにあるのは、なかなか個人イラストレーターではできない機会を提供したい、という想いです。

イラスト:遊凪 デザイン:Kitamura Saki

ーー この企画は、本当に多くの人に影響を与えたと思います。イラストレーターだけじゃなくて、デザイナーや本当に沢山のクリエイターが驚いたと思います。私も「すごく楽しい遊びを発明したな!」って思いました。

柿坂: 『浮世東京』は、まだまだ拡張できると思っています。イラストレーターだけでなく、写真家や、それこそIPコンテンツも巻き込んで、もっと面白い化学反応を起こしていきたい。ただ、僕自身はあまり長期的な視点で物事を考えているわけではなくて。とにかく「今、ここで一番面白いことを、最高のやり方でやる」という、その繰り返しなんです。

ーー その瞬発力が、これだけの熱を生んでいるのかもしれないですね。

柿坂: それができているうちは、走り続けようかなと。でも、これも協力してくれるイラストレーターやデザイナーの方々がいてこそ。彼ら、彼女らがいなければ、何も始まりません。本当に、感謝しかないですね。

イラスト:0313 デザイン:小池

ーー 本日は、ありがとうございました!

イベント情報

浮世東京 -graphical tokyo-
期間:2025/10/10-11/10
場所:池袋PARCO本館

https://ukiyo-graphical.tokyo

虎硬

絵を描いたり文を書いたり。

WELCOME TO DEMITAS!

『でみたす!』は、クリエイターと私たちの距離を「グッと」縮めるメディアです。作品からは知り得ない、クリエイターの“知られざる裏側”をお届けします。

MORE
SHARE
目次
🏷️ TAGS
TRUST CREATORS,
EMPOWER CREATION

世界でいちばん、
クリエイターの才能を信じる
クリエイティブスタジオ