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「どんな画材でも同じクオリティで描く」スマホ指描きから全画材制覇へ向かう、前田ネイトの作家精神

2026.05.09
  • でみたす!編集部

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INFORMATION
指スマホ画家
前田ネイト
オンライン教室「魔術学院」の主宰・講師です。 画家、デザイナー、イラストレーターなどをしています。画家は16歳から始めました。 コンセプトは「夢幻とリアルの等価性」です。 写実画の経験を活かし、リアリティのある虚構×嘘のような現実などの表現をすることで「リアル」の境界線を揺さぶるという試みをしております。

スマートフォンと指先だけで描かれた、油彩画のような厚塗りイラスト。SNSで大きな話題を呼んだのは、「指スマホ画家®」前田ネイト氏による精巧な作品です。

※「指スマホ画家」は前田寧都氏の登録商標です。

キャッチーな「指で描く」という点に注目が集まりがちですが、前田氏の根底にあるのは「画材に関わらず、すべて同じように描ける状態にする」という揺るぎない目標です。機材を持たなかった学生時代にスマホからキャリアをスタートさせ、現在ではアナログ画材から3DCGへと、表現の幅を縦横無尽に広げています。

今回、『でみたす!』編集部は前田氏にインタビューを実施。わずか1〜2枚のレイヤーで仕上げる驚きの制作工程から、解剖学に基づく鋭い観察眼、そして自身の作品を「高級品」として扱うための行動まで、プロクリエイターとしての深い思考に迫りました。

満員電車でのスマホ指描きなら作業できる

————SNSで拝見した作品が、すべてスマホの指描きで制作されていると知って驚きました。そもそも、なぜスマホでの創作活動を始められたのでしょうか。

 創作を本格的に始めたのは中学3年生から高校1年生の頃ですが、当時はパソコンもiPadも持っていませんでした。シンプルに「スマホしかデジタルで絵を描ける機材がなかった」というのが、始まりですね。

————今でもスマホでの制作を続けられているのはなぜですか。

場所を取らず、隙間時間を活用できるからです。例えば移動中の満員電車の中でも作業を行なっています。iPadを取り出して描くと周囲の邪魔になってしまいますが、スマホなら片手で吊革に掴まりながら、もう片方の手で絵を描くことができました。

私はiPhone SE、iPhone16、バルミューダフォンの3台を用途に合わせて使い分けています。ざっくりとしたラフの段階は画面の小さいiPhone SE等を使って片手で、親指を使って描いています。基本は電車のなかでラフをたくさん仕込んでおいて、時間がある時にiphone16にデータを移行して人差し指も使って細部を描き込む、というサイクルで制作しています。満員電車でも、作業を進めることができるんですよ。

スマホ指描きは「面」で捉える

———— デジタルツールは何を使用されていますか。また、なぜそのアプリを選んだのでしょうか。

「アイビスペイント」と、「Infinite Painter」をよく使っています。Infinite Painterを使用している理由は2つあり、1つは制作工程のタイムラプスが自動で録画できること。もう1つは、アナログの描き心地に非常に近いブラシがあることです。立体感のあるタッチが再現できるのが特徴で、ブラシ自体のカスタムはあまりせず、デフォルトのベタ塗りペンやフェードを使うことが多いです。

https://www.infinitestudio.art/discover.php

———— 指で描く上で、どのような工夫をされていますか。

 一番の違いは「線画を描かない」ことです。最初の頃は線画を描こうとしていたのですが、上手くいきませんでした。

以前、キャンバスに鉛筆で下書きをしてから絵の具を塗った際、鉛筆の炭が溶け出して画面が汚くなってしまったことがありました。そこで下書きなしで色を置いてみたら、色が濁らず修正もしやすかったんです。「これをデジタルでもやれば描ける」と思い、線画の工程を省くようになりました。

———— 線画がない状態で、どのように形を整えていくのでしょうか。

デッサンのように「面」で捉えます。大まかな色を置いてから、指先ツールで色を混ぜて形を作っていきます。粘土を削りながら造形していくイメージですね。この塗りから形を作る段階で、変形ツールも随時使いながら全体のバランスを整えています。キャンバスの反転なども頻繁に行っていますね。

この時、「ぼかしすぎない」ことが大切です。すべてをぼかしてしまうと、凹凸の情報が消えてのっぺりしてしまいます。暗いところと明るいところの差をつけ、エッジを残しながら色を定着させていきます。レイヤーも細かく分けず、大体1〜2枚にまとめて画面の中で直接色を混ぜています。

スピーディーな制作の裏にあるPDCAサイクル

———— 制作にはどれくらいの時間をかけていますか。

動物であれば体毛を1本1本緻密に描くような作品だとトータルで20〜30時間ほどかかります。ざっくりとしたタッチの絵であれば、1〜5時間です。

時間を短縮するためには、PDCAサイクルを回すことが重要です。ただ描いて終わりではなく、「ここは時間をかけすぎた」「ここは一発で形を決められた」と自分で評価し、次の制作に活かしていく。この振り返りを繰り返すことで時間を短縮しています。

———— 前田さんのイラストは色彩に深みがありますが、色を置く際のルールなどはありますか。

 最初に置く下塗りの色を意図的に決めています。例えば、茶トラ猫のようなイエローベースのモチーフを描く場合は、補色である緑色を下地に置きます。逆にライラック系の猫なら、主な色はブルーベースの黄褐色なので、補色の赤紫や青を下地に忍ばせておく。このように、見えない部分で色の設計をしてから、上に色を重ねていくようにしています

解剖学と獣医学からアプローチする、徹底した観察眼

———— 動物の毛並みや骨格が非常にリアルですが、どのように観察されているのでしょうか。

猫カフェに行き、猫に配慮してフラッシュとシャッター音をオフにした状態で撮影し、資料にしています。至近距離で鼻の周りの毛などを観察し、資料として撮影しています。実は猫アレルギーなんですけどね(笑)。

高校生の頃に獣医学や解剖学に興味をもち、猫の内臓の配置から骨格まで調べました。猫の骨格には「フォーリン」や「コビー」、「オリエンタル」など六種類のタイプがあります。描く時はまず「この猫はどういう細さの骨格にするか」を決め、生物学的な毛並みの向きに沿うように筆のタッチを置いています。

———— 医学的・科学的な視点からも絵を描いているのですね!元々医学や科学の知識があったのでしょうか。

もともと人間の医学や科学方面に強い興味があり、研究者になりたいという夢がありました。高校時代には理系の学校に通っていたほどです。しかし、研究者になったからといって、自分の本当にやりたい研究ができる保証はありません。

それならば、芸術家として売れて研究の投資にする立場になれば、もっと自分のやりたいことの近道になると考えました。

今ではクリエイティブの世界で生きていますが、幼少期からの理系的な関心は、解剖学的視点から観察する現在の手法に繋がっていると思います。

スマホだけじゃない。目標は全ての画材で同じクオリティを出すこと

———— スマホでの表現を確立されていますが、前田さんにとってスマホでの作画はどのような位置付けなのでしょうか。

私にとってスマホは一つの手段であり、最終的な目標は「特定のツールにこだわらず、すべての画材で同じように描けるようにすること」です。

現在、水彩、油彩、アクリル、色鉛筆、クレヨンなどに加え、昨年からは日本画にも挑戦しています。既成の画材だけでなく、食品添加物であるメチルセルロースを日本画の膠の代わりに使ってみる実験なども行っています。全ての画材で同じクオリティのクリエイティブが作れる。これが私の目指すクリエイターとしての姿なんです。

———— 平面にとどまらず、立体作品も制作されていると伺いました。

スマホアプリの「Nomad Sculpt」を使って3DCGのモデリングを行っています。モデリングには元々興味があったのですが、長時間パソコンの前に座って作業することにネックを感じていました。そこで。普段のイラスト制作の延長として、スマホでモデリングを始めてみたのがきっかけです。

スマホで出力したデータを金属鋳造の業者に渡し、自分でいぶしたり磨いたりしてジュエリーを作る活動をしています。「すべての画材に手を出したい」という自分の心に嘘をつかず、新しい表現方法には積極的に挑戦していますね。

https://nomadsculpt.com/manual/ja/gettingstarted

———— 前田さんご自身も、ジェンダーレスなファッションがとても素敵ですよね。身だしなみや持ち物へのこだわりも、作家活動と関係があるのでしょうか。

 もちろん関係しています。私は、絵画は「高級品」の部類に入ると思っています。自分がその高級品を売る立場になるのであれば、そのメンタリティを養わなければなりません。

そのため、作品を売って得たお金を使ってデパートへ行き、良い服や化粧品を買うようにしています。

そうやって意図的に高級品が置かれている環境に身を置き、実際の製品に触れることで、物の違いを知り、自分自身の審美眼を磨き続けられると思うんです。

言語に頼らない描写力を磨く

———— 現在、オンラインの絵画教室で指導もされていますが、生徒さんにはどのようなことを教えていますか。

「セルフ添削」のやり方を教えています。自分が何を描きたくて、何が上手くいかなかったのかを自分で考えられるようになることが大切です。まずはパブリックドメインの画像を模写し、客観的に手本と見比べる練習をしてもらいます。

また、「言語に頼らない見方」も指導しています。例えば「水を描きましょう」と言うと、頭の中で「水色」を想像してしまい、実際の水の色が見えなくなってしまいます。思い込みに囚われず、見たままの色や形を捉える訓練として、折り紙で風船や鶴を折り、実際のそれを見て描く練習を取り入れています。

https://natemaeda.official.ec/items/116602723

———— 最後に、前田さん自身の今後の目標と、絵を描く全ての方にメッセージをお願いします!

オンラインだけでなく、実店舗の絵画教室を作ることです。オンラインでも関わることはできますが、人と実際に会って話すことや、物理的な居場所の提供は今後より大切になると思います。そこで生徒さんの作品を展示したり、自分の個展を開いたりできる場所を作ることが一番の目標です。

そして、これから絵を描き始める方には、まずは「線画を描かない」手法を試してみてほしいです。そして、本当はもっと上手くなりたいのに「これで満足だ」と自分をごまかさず、自分の心に嘘をつかずに描き続けてほしいと思います。やればできる。なりたいものになれる。自分の限界を設定せずに、果敢に挑戦し続けてください。

https://natemaeda.official.ec/p/00001

鈴木 樺恋

『でみたす!』プロジェクトマネージャー・編集者。コンテンツの企画・製作を担当。画塾で絵を学んだ経験から、「描く側のニーズも満たすコンテンツづくり」を目指しています。

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