インディーゲーム『SAEKO: Giantess Dating Sim』をご存知でしょうか。プレイヤーは親指サイズに縮んでしまった青年「リン」となり、巨大な女の子「冴子(さえこ)」の部屋の引き出しの中で、他の小人たちとともに命懸けの同居生活を送るアドベンチャーゲームです。
https://store.steampowered.com/app/2492120/SAEKO_Giantess_Dating_Sim
昼は小人たちの管理、夜は冴子との死と隣り合わせの会話という2つのパートで進行する本作。SNSでも大きな話題を集めましたが、本作特有の「圧迫感」や「生々しさ」は、緻密に計算されたピクセルアートによって描かれています。残酷ながらもどこか魅惑的な世界観は、独創的なグラフィックの力なしには語れません。

今回は、本作のアートワークを担当した「SAFE HAVN STUDIO」のkohさんにお話を伺いました。ドット絵だからこそ表現できたというリアリティから、少人数開発だからこそ生まれた熱量あふれる制作の裏側まで。知れば知るほど冴子の世界に迷い込んでみたくなる、『SAEKO』のアートワークの秘密に迫ります。
※以下はゲームに関する一部ネタバレを含みますが、核心に関わる部分は記載していません。
『冴子』はとあるオンライン小説から生まれた
———— 『SAEKO: Giantess Dating Sim』は発売開始から一年でsteam「非常に好評」を数多く獲得し、2026年6月にはSwitch版も発売予定です。kohさんは本作にどのように関わっておられるのでしょうか?
『SAEKO』に注目していただいてありがとうございます!ピクセルアーティストのkohと申します。
開発元である「SAFE HAVN STUDIO」に所属しておりまして、本作では主にアートワーク周りを担当しました。キービジュアルや夜の冴子との会話パートの制作をはじめ、一部キャラクターデザインにも携わっています。

———— kohさんがSAFE HAVN STUDIOにジョインした経緯を教えてください。
SAFE HAVN STUDIOのリーダーであり、『SAEKO』のシナリオやディレクションを担当しているkypと自分が、大学時代からの知り合いだったんです。
その縁もあって、一緒にゲームを作らないかと誘っていただいたのが始まりですね。自分自身も、学生時代にゲーム制作サークルに所属していました。サークル内のプロジェクトにもいくつか参加していたんですが、完成してリリースできたのは4年間で1本だけで(笑)。ゲーム開発の難しさは当時から痛感していました。
その後もゲーム会社に就職し、スマートフォン向けゲームの運営などに関わっていた時期もあります。私の人生のなかで、ゲーム開発に携わっている時間は、割と長いのかもしれません。
———— 今回、kohさんは『SAEKO』のキャラクターデザインやグラフィックを担当されていますが、冴子の印象的なデザインはどのようにして誕生したのでしょうか?
キャラクターのざっくりとしたイメージや設定はkypの方から提案してもらいましたが、このゲームを作るにあたって強くインスピレーションを受けた小説作品がありまして。
笛地静恵先生の『もうひとつのコワイ童話』というオンライン小説作品です。
「この小説を一旦読んで、イメージを膨らませてくれないか」というところから始まりました。

https://g-fork.come-up.to/contents/FuechiShizue/oyayubi/index.html(リンク先R-18(G))
小説の内容を起点に、冴子のビジュアルを「圧迫感がありつつも、魔性の魅力がある女性」として描きたいと考えました。
目が合うと怖いという印象を持たせたかったので、瞳の色を引き込まれるような深紅にしてみたり、全体的な着色をミステリアスな印象を与える紫を軸に構成してみたりしています。
このように、ひとつひとつ要素を積み重ねながら冴子のデザインを固めていきました。
———— 冴子の部屋着がタンクトップのようなラフな服装なのも、すごく可愛いなと思っていました。
肌の露出がある服装にしたのは、冴子が小人のことを「人」だと思っていないからです。他人と会う時はちゃんとおしゃれしたがるけど、小人はもはや人間として扱っていないから、ラフな部屋着で接している。
その関係性を一目で伝わるように表現したくて、タンクトップとパーカーという、お家ならではの服装にしています。

小人視点の圧迫感は「首の長さ」で表現する
———— 『SAEKO』は、小人からの目線で巨大なものを見上げる視点が多く登場しますよね。「巨大な人間を見上げる」構図はどのように制作していったのでしょうか?
シチュエーションやオーダーをいただいてから、イラストに描き起こす際に、資料として写真を毎回撮るようにしていました。現実ではありえないシチュエーションですから、自分の想像だけで描いてしまってはどうしても限界があり、画面に説得力がないと思ったんです。
例えば、「勉強している冴子の隣で話を聞く」シーンを描く時には、実際に自分自身が机に向かった状態で隣にカメラを置いて、「ここからの目線だとどう見えるのか」を客観的に捉えるようにしていました。
そこで気づいたのが、小さいものが人間を下から見上げると「人間の首が普段よりもとても長く見える」ということでした。ただ、写真をそのまま写実的に描けばいいというわけではなく(自撮りでは下から撮ると「盛れない」なんて言われたりしますよね)、そういった「下から見上げた時の人間ならではの迫力」を誇張すれば、冴子と対峙したシチュエーションをリアリティを持って表現できると思ったんです。
だから、冴子については、首が長く感じるように描いている絵が多いですね。

———— 確かにイラストを見返してみると、首にしっかりと影が入っていて、首の長さや圧迫感が表現されていますね…! ゲーム開発の過程で一番意見が衝突したり、時間をかけて構築した箇所はありましたか?
コンセプトの芯が初期からがっちりと固まっていたので揉めることはなかったですが、強いて挙げるなら「夜パートのビジュアルの変更」ですね。 実は初期のデモ版では、メインビジュアルでも使用されている、冴子の上半身と顔が1枚に収まったカットが、夜の会話シーンでそのまま使われていたんです。
しかし作っている途中でkypから、もっと会話している感や圧迫感が欲しいから、会話中「体しか見えないカット」と「見上げて顔が映るカット」に二つのカットを行き来するように演出を変えたい、と相談があって。
描き直す労力を考えると「本当にやるのか?」と最初は躊躇しました(笑)。でも、絶対にその方がいいと自分でも確信があったので、二つのカットを新たに制作し、現在の形になったんです。

キャラクターの顔を1枚に収めようとすると、どうしても距離が離れて見えてしまい、画面全体にのっぺりとした印象がありました。そこで、思い切って2つのカットに分けることで、プレイヤーが物理的に見下ろされるリアリティを持った、他にはない圧迫感を出せたと思います。
———— 『SAEKO』の反応を見ると、巨大娘ファンからの厚い支持を得ていますよね。逆にプレイしてみて新しい扉を開いてしまった方もいらっしゃるんじゃないですか?
コンセプト発表段階からフェチズムのコミュニティの方々に応援していただいて、「こんなゲームを作ってくれてありがとう」という声もいただき、開発者としてもありがたく思っています。
ただ、制作意図としてはフェチズムを満たすだけのゲームではなく、それをテーマに扱いながらも、冴子が作中で抱える「他者と異なる自分との向き合い方」といった普遍的な悩みを問題提起として描いています。
ですので、巨大娘ファンではなくとも共感していただける部分があると思いますし、実際これをきっかけに興味を持ってくれた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
高解像度ではないからこそ見えるリアリティ
———— ゲームオーバーの時に握り潰されるシーンがすごく好きなんです。潰される直前に、指の間から冴子の目が見えるカットがめちゃめちゃ良くて……!
握り潰されるシーンは『SAEKO』の中でもインパクトがあるシーンかつ、プレイ中に何度も遭遇するであろうカットです。だからこそ、グラフィックにはかなりこだわって描きました。潰される瞬間、冴子の目がちらりと見える構図は、こちらとしても気に入っているカットです。

巨大なものが隙間から覗いて見える迫力って、『進撃の巨人』の壁の向こうから超大型巨人が現れるのと同じような迫力があると思っています。
手がぐわっと近づく迫力を描くために、手のシワなど生々しさを意識しているんですが、そうした点をリアルに寄せて描くのではなく、あえてドット絵で表現しているところに、ピクセルアーティストとしての自分のこだわりがあります。
———— ピクセルアートでリアル以上の迫力を出すために、どのような工夫をされているんですか?
現実では起こり得ない異質な存在を、ドット絵という抽象的な表現で表すことによって、リアルな描写よりももっと、圧迫感や恐怖感を出したいと考えました。例えば冴子のグラフィックは、かなり線が荒く描かれています。
おそらく綺麗なピクセルアートのルールを破りまくっているので、見る人によっては違和感があるかもしれません。ですが、違和感を持つという状態を、意図的につくりだしたかったんです。

例えば、大きいビルを眺めた時、明らかにビルだとは分かっても、表面のコンクリートの傷がどうなっているかまでは、一般的には分からないですよね。それと同じように、冴子という存在についても、存在感はありながらも、細部にはドットの荒いピクセルアートでガタっと歪んだ部分をあえて残すようにしています。精密に描かないことによって「存在を捉えきれない」というリアリティを追求しました。
実際には体験することのできない「巨大な女の子が目の前にいる」という恐怖感や圧迫感を感じ取ってもらえたらいいなと思っています。
———— そんな計算があったのですね! 昼パート(引き出しの中)と夜パート(冴子との会話)で、絵柄がガラッと変わるのも印象的でした。
実は、昼と夜では絵柄だけでなく、解像度も結構違うんです。昼のパートの方がデフォルメされていて絵柄は可愛いんですけど、ドットの粒は小さい。つまり、キャンバスサイズとしては昼の方が大きく、細かなイラストになっているんですよ。

※「昼」パートのイラストはkyp氏が担当
———— そうなんですか!? 全然気づきませんでした。
なかなか気づきにくいとは思うんですが、これも意図的なものでして。小人になって目の前の仲間と会話したり、引き出し内の模様がくっきりと見えたりする昼パートの方が、視覚としても、より鮮明に認識していると思うんです。

そこから冴子を見上げると、一気に抽象度が上がって遠くにでかいものがあるという、認識としてとても不安定な状態になる。だからこそ、夜パートでは一気にドット感が強まる表現に分けています。
いつの間にか表現の中で認識が変わるというのはゲーム体験としてすごく良いことだと思うので、ユーザーさんに気づかれないことはこちらとしても嬉しいですね。
———— ゲーム内で出てくるガラケーのUIもとてもリアルに描かれていますよね。
当時の空気感を出したくて、実際に中古のジャンク品を買って資料を集めました。アイコン類はもちろん、カーソルを合わせた時の当時のガラケーの挙動感みたいなものまで、全部自分が描いています。

文字はゲーム上で実装しているので絵としてはないんですけど、あの時代の懐かしさを感じてもらえるように、試行錯誤を繰り返しました。
6月発売のSwitch版は世界観に没頭して楽しんで
———— これほど緻密に計算されたピクセルアートですが、制作環境や使用ソフトはどのようなものなのでしょう?
ほとんど「CLIP STUDIO PAINT」で制作しています。たまにAsepriteを使うこともありますが、「CLIP STUDIO PAINT」はデジタルイラストを始めた時からずっと使っているソフトなので、自分の手に馴染んでいる感覚がありますね。
実際の制作プロセスとしては、まずアナログで絵のコンセプトや空気感を大まかなラフとして描き出します。それを320×180ピクセルといったドット絵用のキャンバスに移し、色や構図を整えながら、上からひたすらドットを打っていくんです。

<制作過程1>
今回はゲーム用の素材なのでパーツ分けはしっかり管理していますが、ツールは1ピクセルずつ打てるペンだけでなく、アンチエイリアス設定をオフにしたGペンなど一般的なブラシを使うことも多いです。

<制作過程2>
自分はドット絵を厳密なルールで綺麗にやっている人間ではないので、各種ブラシ機能やレイヤー機能を使って、普通のイラスト制作に近い自由なプロセスで描いています。最後にエアブラシでふんわり光を乗せたり、違う解像度の絵と組み合わせたりと、その時々で柔軟に加工もしていますね。

<制作過程3>
ただ、あくまでピクセルイラストとしての美しさを保ちたいので、キャンバス全体としてのドット感と、中に描くモチーフのピクセル数のバランスは常に意識しているところではあります。

———— 6月末にはSwitch版が発売されますが、改めて注目してほしいポイントはありますか?
グラフィック面で言えば、冴子との会話シーンの細かい差分やループアニメーションですね。1枚としてのループではなく、パーツごとのループをプログラム上で組み合わせて、無限に再生していても自然に見えるように瞬きのタイミングや頻度などをこだわって作っています。
ただ、こだわってと言うと聞こえがいいんですけど……小人数開発だからこそできる、端的に言うと「ゴリ押し」で作っている部分も大きくて(笑)。タイムラインに大量のフレームを作って、大量の連番画像として書き出して流し込むという、インディーならではの力技です。
kypと2人で作っている部分なので、細かいところもやり放題というか、自由にできたのは良かったですね。

<ループアニメーション>

<CLIP STUDIO PAINTのタイムラインの様子>
———— インディー開発ならではの熱量がそのまま実装されているんですね!これからの発売が楽しみです。
ただ、ゲーム体験としてはお話したような裏側の技術やグラフィックの細部に何も気づかないぐらい、冴子との会話や引き出しの中でのコミュニケーションにのめり込んでもらうことが1番嬉しいです。
Switch版の発売で、手に取れる方の幅も大きく広がったと思います。また、限定版をはじめ各種特典グッズもあるので、既に遊んでくださった方にも喜んでいただけると嬉しいです。ぜひ、たくさんの方に『SAEKO: Giantess Dating Sim』を楽しんでほしいです。
あなたもNintendo Switchで、冴子のいる、不思議な世界に迷い込んでみてください。
■ 『SAEKO: Giantess Dating Sim』発売情報

- 発売日:2026年6月25日
- プラットフォーム:Nintendo Switch
- 価格▼
- ダウンロード版:2,090円(税込)
- パッケージ通常版:3,960円(税込)
- 限定版:7,700円(税込)
- 公式サイト:
https://hyperreal.jp/saeko-switch/