裏側で満たす

「イラスト企画は”振り出しに命をかける”」――。宮本祐輔氏に聞く、広告営業からデザインまで。その“翻訳力”の源泉に迫る

2026.05.27
  • 虎硬

  • でみたす!編集部

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INFORMATION
クリエイティブプランナー/イラストレーションディレクター
宮本祐輔
広告会社でデザイナー、CMプランナー、プロデューサーなどを経験後、独立。クリエイティブユニット「COJIRASE LUNCH BOX」として、イラスト企画のプロデュース・ディレクション、書籍の企画・監修などを手がける。

イラストの仕掛け人に迫る

好きなイラストレーターの展示会に足を運んだり、お気に入りの作品が広告や商品になったりしたとき、その裏側にはかならず仕掛け人がいます。

ILLUSTRATORS EXPO 大阪会場

クリエイターの情熱的な創作活動と、企業が求めるビジネスのロジック。

クリエイティブプランナー/イラストレーションディレクターの宮本祐輔さんはまさにイラストの企画人として、様々な企業課題とイラストレーションをつなぎ、チャレンジを進めています。

本日、5月27日(水)から阪神梅田本店ではじまる『イラストレーターの仕事展2026』でもクリエイティブディレクションを担当。多数のクリエイターが参加する企画をまとめています。

宮本さんはこれまで多くのイラストに関する企画を手がけました。

総勢162名のイラストレーターとデザイナーが参加したOsaka Art & Design 2025のプログラム『ILLUSTRATORS EXPO / ILLUST. POSTER EXPO』をはじめ、イラストレーターを⽬指す人のための配信番組『イラストレーターのウラバナ!』、書籍『印刷・支持体・額装 デジタルイラスト展 ハンドブック』(玄光社)など、その仕事は多岐にわたります。

ILLUST. POSTER EXPO 大阪会場

今回は宮本氏の広告業界で培った独自の視点と、異なる世界の言葉を繋ぐ“翻訳者”としての哲学。その思考の源泉に、深く迫ります。

広告代理店からイラストレーションの世界へ

ーー まずは宮本さんのキャリアの原点についてお伺いしたいです。元々は広告代理店でデザイナーをされていたんですよね。

宮本: デザイナーと言ってもグラフィックだけやっていたわけではないんです。大阪勤務だったのですが、関西は中小企業のクライアントが多くて、クライアントの課題解決のため何でもやるという感じでした。

ILLUSTRATORS EXPO 大阪会場

ーー 何でも、というと具体的には?

宮本: テレビCMの企画コンテを描いたり、雑誌広告を作ったり、展示会のようなイベントを企画・運営したり。クライアントによってはWebメディアの提案、つまりメディアプランニングのようなことまでやっていました。いわゆる広告制作に関わることは、川上から川下までほとんど経験したと思います。

ーー その経験が、今のイラストレーション企画に活きている部分は大きいですか?

宮本: めちゃくちゃ大きいですね。イベント現場でどう人が動いているのか、施工の知識、印刷会社さんとのやり取りの工程もわかります。色々な立場の仕事をちょこちょことつまみ食いしてきたおかげで、プロジェクト全体をディレクションする力が養われたんだと、今になってはありがたく感じています。

ーー そこから、現在のメインフィールドであるイラストレーションの世界へは、どのような経緯で?

宮本: 大きなきっかけは、2018年頃に担当したソーシャルゲームの案件です。僕の仕事は、ゲームで実装されるキャラクターを描いていただくイラストレーターさんをアサインすることでした。それまでコミケにすら行ったこともなかった僕が、初めてこの世界のクリエイターたちと深く接する機会になったんです。

ーー そこで、この世界の面白さに目覚めた、と。

宮本: 第一線で活躍されている方々の圧倒的な画力と仕事ぶりに衝撃を受けましたし、何より純粋に楽しかった。それで「これは他の広告会社と戦う武器になる」と確信して、立ち上げたのがクリエイティブユニットの「COJIRASE LUNCH BOX」です。

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クリエイターと企業を繋ぐ“翻訳者”

ーー 宮本さんはご自身の仕事を「翻訳者」と表現されることがあると伺いました。まさに今日のテーマなのですが、詳しくお聞かせいただけますか?

宮本: 僕の仕事は、広告業界のロジックと、クリエイターの想いや強み、その両方を理解して、翻訳・調整することだと思っています。特にフリーランスになってからは、様々な企業さんとクリエイターさんの間に入る機会が増えたので、より強く意識していますね。

ーー その“翻訳”の根幹にあるものは何でしょうか。

宮本: 広告代理店時代に培われた「一般人感覚」ですね。イラストは非常に強い力を持つ一方で、ネットやポップカルチャーという特定の文脈の中で育まれてきた側面もあります。だからこそ、その表現を百貨店のようなパブリックな場や、ファンではない一般の方の目に触れる広告に出すときに「どう映るのか」を常に意識しています。アウトプットが世の中にどういう反応を引き起こすか想像する力、特に炎上などのリスクを回避するためのジャッジは、自分の強みかもしれません。

ーー 時にはクリエイターの「これを描きたい」という想いと、企業の「これは違うのでは」という意見がぶつかることもあるかと思います。そうした場面でのコミュニケーションで、意識されていることはありますか?

宮本: 大前提として、クライアントも、クリエイターも、関わる人みんなが「いいものを作りたい」と思っている。その気持ちは同じだと思います。摩擦が起きるのは、それぞれの立場からの「なぜそうしたいのか」という理由が共有されていないとき。だから僕は、そこの言語化と伝達をすごく丁寧に行うようにしています。

ILLUSTRATORS EXPO 大阪会場

ーー 具体的には、どのように“翻訳”をしていますか?

宮本: 例えばクライアントから「この部分を赤色にしてください」という具体的な修正指示が来たとします。僕はそれをそのままクリエイターに伝えません。まず「なぜ赤色にしたいのですか?」と、その意図を深掘りします。もし目的が「目立たせたい」ということであれば、「それなら、全体のバランスを考えた上で最も目立つ方法を、イラストのプロである作家さんに考えてもらうのがベストではないですか?」と提案します。目的と手段を整理し、それぞれのプロに判断を委ねる。そうすることでお互い納得し、クリエイティブとしてもより良いものにできるのではと思います。

ーー そういった行き違いをなくすために、企画の初期段階で特に意識されていることはありますか?

宮本: 「振り出しには命をかけてます」。最初の打ち合わせで、クライアントが絶対に譲れないマストな要素と、クリエイターのセンスに委ねていい部分を明確に切り分け、言語化します。そして「委ねると決めた部分については、後から口を出さないでくださいね」とクライアントにもはっきり言います。この最初の設計が、後のすべてを決めると言っても過言ではないかと。

「課題ありき」から生まれる企画たち

ーー 宮本さんの企画は、配信や書籍、そして『ILLUSTRATORS EXPO / ILLUST. POSTER EXPO 』などの大型展示など、個別の案件に留まらず、業界全体を盛り上げるようなものが多い印象です。

宮本: ありがとうございます。ただ、僕自身は「これがやりたい」と自分発信で企画を考えることはほとんどないんです。常に「課題ありき」なんですよ。

ーー 課題ありきですか。

宮本: 『イラストレーターのウラバナ!』は、イラストレーターのPOKImariさんとの雑談の中で「プロのイラストレーターにOB訪問みたいに話を聞ける機会があったらよかった」という言葉がきっかけでした。決まったキャリアパスがないからこそ、先輩たちの道筋が誰かの道標になるんじゃないか、と。

イラストレーターのウラバナ!#3【ゲスト:POKImari】

ーー 『イラスト展ハンドブック』も、誰かの課題から?

宮本: あれは、僕自身の課題からです(笑)。個展のディレクションをするたびに、作家さんごとに毎回提案資料を作るのですがけっこう大変で。これを一冊にまとめておけば、自分が楽できるな、と(笑)。ただ、作るからには作家さん自身が作品制作に活用できるのはもちろん、ビジネスとして展示会を理解し、個展成功のための一助になるための知識も詰め込みました。

印刷・支持体・額装 デジタルイラスト展 ハンドブック(玄光社)
印刷・支持体・額装 デジタルイラスト展 ハンドブック(玄光社)

ーー そして、総勢162名が参加した『ILLUSTRATORS EXPO / ILLUST. POSTER EXPO 』。これもまた「課題ありき」の企画だったのでしょうか。

宮本: そうですね。ことの発端は、Osaka Art & Design 2025というアートイベントのプログラムとして、阪神梅田本店ではイラストレーターさんにフォーカスした大規模な展覧会を開催することになったことからでした。ただ、作家さんを集めて展示するだけでは、よくあるグループ展になってしまう。それでは面白くないし、作家さんにもファンの方にも喜んでいただけないなと。

ーー そこで、何か新しい軸を加えようと。

宮本: はい。「誰もやったことがない企画」をしたい、と強く思いました。ちょうど大阪・関西万博の時期が近かったこともあり、万博を応援したいという気持ちがありました。また、百貨店という様々な人が来られる場所なので、お子さんやアートの知識がなくても楽しめるものにしたいと思い、そこから「イラストレーターとデザイナーがタッグを組んで、未来の架空の博覧会を想像し、ポスターを作る」というアイデアが生まれました。

ILLUST. POSTER EXPO ポスター作品

ーー ILLUST. POSTER EXPOはイラストレーターさんだけでなく、デザイナーさんにも焦点を当てたのが画期的でした。

宮本: ポップカルチャー業界には、草野剛さんや有馬トモユキさんのように素晴らしいデザイナーさんがたくさんいますが、普段は黒子の仕事なので、一般的に名前が知られる機会はあまりありません。でも、彼らがいなければ、この業界のクリエイティブは成立しない。だから、そんなデザイナーさんたちにもスポットライトが当たる企画にしたかった、という想いが強くありました。

ーー 企画を進める上で、特にこだわった点はありますか?

宮本: ペアを組むイラストレーターさんとデザイナーさんには、ゼロから一緒に作品を作ってほしかったんです。なので、事前に組ませていただいたペアごとに、キックオフ会と称してできるだけ実際に印刷会社に来て集まってもらいました。ショウエイさんやFLATLABOさんの協力のもと、サンプルを見ていただきながら印刷技術のレクチャーを行い、テーマについても詳細にオリエンをさせていただいて、そこからゼロベースでの打ち合わせをスタートしてもらいました。

ILLUST. POSTER EXPO 大阪会場

ーー すごい光景ですね…!

宮本: もう、会場は『ワンピース』の頂上決戦みたいでしたよ(笑)。米山舞さんをはじめトップクリエイターが一同に会して、「こんなすごいメンバーの中で、自分は一体何を作ればいいんだ…」と。僕自身もデザイナーとして参加していたのですが、あまりのプレッシャーに降りたいと思いました(笑)。でも、あの熱量があったからこそ、素晴らしい化学反応が起きて、あれだけの作品たちが生まれたんだと思っています。

ILLUST. POSTER EXPO 東京会場

ーー 最後に、宮本さんが考える「良い企画」の定義とは何でしょうか。

宮本: 先ほども言ったように、僕の企画は常に「課題ありき」です。クリエイターさんが困っていること、クライアントが悩んでいること、世の中に足りないもの。そういった課題を探し、それらを解決するために何ができるかを考えるのが僕の仕事です。だから、クリエイターやそのファン、そして企画に関わる誰かにとって「ありがとう」と思ってもらえるもの。それが、僕にとっての“良い企画”なのだと思います。

ーー 本日は、貴重なお話を本当にありがとうございました!

ILLUSTRATORS EXPO 東京会場

イラストレーターの仕事展2026
会 期|2026年5月27日(水)〜6月1日(月)
時 間|10:00〜20:00
    ※催し最終日は午後5時終了
    ※入場は閉場30分前まで
会 場|阪神梅田本店8階 催場
入場料|一般 1400円、高校生 800円、中学生以下 無料

https://web.hh-online.jp/hanshin/contents/saiji/illust_work

著書『明日から絵描きで生きたい僕が身につけるべきは画力だけでなく××力だった』(玄光社)

著書『明日から絵描きで生きたい僕が身につけるべきは画力だけでなく××力だった(玄光社)』

虎硬

絵を描いたり文を書いたり。

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