ポップで独自性のあるビジュアルと、滑らかに動くアニメーション表現で注目を集める、イラストレーター/映像作家のP1PE氏。MV制作やビジュアルワークなど幅広い領域で活動しながら、その表現をアップデートし続けています。
そんなP1PE氏が今、挑んでいるのが「ゲーム開発」です。

表現の幅を広げるために踏み出したこの挑戦は、決して軽やかなものではありませんでした。分岐によって膨れ上がる工数、曖昧さが許されないUI設計、そして終わりの見えない試行錯誤。そこには、感覚やセンスだけでは乗り越えられない“構造”の壁がありました。
華やかなビジュアルの裏側で積み重ねられていたのは、徹底した合理性と圧倒的な行動量。異分野への挑戦の中で見えてきた、クリエイターとしての戦い方に迫ります。
さらなる表現の高みを目指してゲーム開発へ
————本日はよろしくお願いします!P1PEさんは現在ゲーム開発に挑戦中とのことですが、手応えはいかがでしょうか?
イラストレーター・作家のP1PEと申します。よろしくお願いします。今は楽しく制作していますが、実際の作品の進み具合としてはまだまだ、という感じですね。
難しいことに挑戦する自覚はあったのですが、実際にトライしてみて、今まさに壁にぶつかっている最中です。
————元々イラストや映像制作でご活躍されていますが、今回はなぜ「ゲーム開発」を選ばれたのでしょうか?
表現の幅を広げたかったのが一番の理由です。同じイラストや映像制作を続けていると、だんだん自分のスタイルも見えてきますよね。ただ、スタイルを確立してから数年間制作をしていくうちに「表現が固まってきてしまう」という壁にぶつかってしまったんです。

その問題は技術的な部分でも、発想や画面のアイデア的な部分でも起きてしまって。さらに自分の作品の質を高めようと考えた時に、既存の表現の中だけに留まるよりも、まったく新しい媒体に飛び込んだ方が、最終的な出力の幅が大きくなるのではないかと考えました。
そこで、自分の武器である「アニメーション」にプラスαで何かできないかと探しているうちに、ゲーム開発に辿り着いたんです。自分のシンプルな絵柄との相性を考えた時に、長編アニメをつくるよりも、ゲームの方が適しているという判断でした。

————確かにP1PEさんのアニメーションは滑らかでとても素敵ですよね!ただ、映像としてアニメーションを作るのと、ゲームの中で動かすのとでは、勝手がかなり違うのではないでしょうか。
映像作品とゲームでは、「動かす」の重みが違いました。構造ゲームの最大の特徴は「インタラクション性」があること、つまりユーザー側が操作のタイミングを調整できるという部分です。そこが最大の魅力でもあるのですが、それを踏まえた上で「どうアニメーションを描くのか」がすごく難しくて。
映像作品なら、見せたいものを見せるだけでいいので、一連のタイムラインに沿って初めから順々に作っていけばいいんです。でもゲームだと、「プレイヤーがこの選択をする・しない」という分岐ごとに、違う画面を2つ作って、そこからさらに分岐させて……というように、処理や選択肢のパターンが無限に増えていきます。単純に、すごく手間がかかりますね。

————分岐ごとに制作しなければならないとなると、完成までが途方もなく感じますね……!
最初は「1ヶ月でちっちゃいゲームを完成させる」という予定で作っていたんですけど、全然完成しませんでした(笑)。今の予想だと、2026年の夏頃に何かしら形になるものを作りたいと思っているので、結果的に1年以上はかかりそうだなって思います。
よくゲーム開発だと「想定期間の3倍かかる」と言われたりしますが、実際にトライしてみて、本当に長丁場になるなという印象です。

————ゲームを完成させるには凄まじいパワーが必要なんですね。
ゲーム開発そのものが難しいというよりも、プロダクトとしての「ゲーム」という単位が他と比べて大きいのだと思います。
プロダクトとして大きなものを作るには、イラストの技術だけでなく、プロジェクトを進行させるマネジメント能力などが求められるのだなと、ひしひしと感じていますね。
イラスト的な抽象表現はゲームでは「ノイズ」になる
————手探りでのゲーム開発が続いていると思いますが、異分野に触れてみて、イラスト制作への新たなインスピレーションを得た瞬間はありましたか?
ユーザーインターフェースの部分で、とても多くの知見を得られました。イラスト表現って、実は抽象的な部分があっても構わないんです。描いているものが何を指しているか分からなくても、「なんとなく牛に見える」「これは扉かな」「火を表しているのかな」というふわっとした表現が、逆に味になったりする。
でも、ゲームだと「これは明確に押せるボタンだよね」と、プレイヤーに伝えなければいけない。なんとなく分かればいいのではなく、設計する側が明確な目的を持ってプレイヤーを導かなければならないんです。「自分が相手に伝えたいものを、誤解なく画面に描けているか」という視点は、前よりもずっと意識するようになりました。

————機能を意識すると、画面作りも変わってきそうですね。誰にでもわかる表現って、意外に難しいのではないですか?
ワンシーンだけのプロトタイプを友人や知り合いに触ってもらった時に、認識のギャップを痛感しました。
自分では当然のように「これはボタンだからクリックできるよな」と思って描いていたんです。しかし、プレイした人からは「画面内で触れるものとして全く認識されていなかった」と言われてしまって。
開発するとなると1人で没頭してしまいがちですが、プレイしてもらうことやフィードバックを踏まえて調整する工程も、欠かせないのだと実感しましたね。
————試行錯誤の連続ですね……!開発エンジンは何を使われていますか?プログラミングの知識は元々お持ちだったのでしょうか。
エンジンは「Godotエンジン(ゴドーエンジン)」を使っています。UnityやUnrealEngineのような総合型のエンジンは、多くの方が使っているメジャーなツールですが、自分みたいな初心者からすると高機能すぎて難しい部分が多くて。過去にUnityに挑戦して挫折した経験もあるので、UIがごちゃごちゃしておらず、自分のシンプルな絵柄と合いやすく、かつ用途が限定されすぎないGodotエンジンを選びました。

プログラミング自体は完全な初心者というわけではなくて。過去にミュージックビデオを制作した時に、AfterEffectsやクリスタを使うだけでなく、「マウス操作で素材を動かしたい」と思って、Web上で動くものを少しだけスクリプトを書いて作って、それをキャプチャーして使ったりしていました。
「自分の意図した通りにアニメーションを動かす」くらいの簡単なコードなら、自分で書けるようにしたいと、前々からプログラミング自体には触れています。

————ご自身の活動において、「表現方法の拡張」や「効率的なやり方」をすごく重視しておられるのですね。
そうかもしれません。イラストレーターさんの中には「描いていて辛いけれど、自分がやりたいことだから描く」という方も時々いらっしゃいます。自己鍛錬の面では素晴らしいですが、自分に関しては「楽しめないことはNG」で。
制作の中で、自分が「楽だ」「やりたい」と思えることしかやらない、ということは徹底しています。無理に描きにくいものを描かなきゃいけないくらいなら、モチーフそのものを変えたり、設定を無理やりにでも変えたりします。自分が楽しいと思わないと、うまく筆も乗らないんですよね。

————「楽しいと思うものをつくる」という主義は徹底されているんですね!
例えば、僕のアイコンにもなっているキャラクターの造形も実はかなり計算して作っているんですよ。
元々は、適当に考えた鳥の頭に棒人間の手足が生えたようなキャラだったんです。でも、アニメーションとして動かす時の作画コストを考えたり、後々立体化してグッズとして売る時のことを考えた時に、「線のキャラクターではなくて、面としての手足を持つものがいいな」と。

表情のアニメーションも、写実的な目にするより、丸い曲線や逆の「くの字」みたいな図形表現にした方が、コストもかからないし可愛いですよね。あえて名前や正体を公に出さず、「よくわからないけど可愛い」とユーザーに引っかかってもらえるように、ミステリアスな存在としてSNSに出しています。
理系大学生から未経験で美大受験へ。自分の武器を磨いた1年間
————キャラクターの丸みやパーツの一つ一つにまで、細かな工夫と戦略が詰まっているのですね!そうした合理的な思考や、自分を客観視する能力は、どのように培われたのでしょうか?
実は自分、元々は理系の大学に行っていたんです。だから思考的には論理的だったり、理系的な部分があるのかもしれません。ただ、大学2年生になったあたりで、イラストやデザインに対する思いがどんどん強くなっていって。「自分は何かを表現をすることがしたいんだ」と気づき、ノリで理系の大学を辞めて、美大の予備校に通い始めたんです。

————ノリで美大受験に転身したのですか!?受験となるとデッサン力などが必要になりますよね。元々得意だったのですか?
予備校に入った当時、自分のデッサンは箸にも棒にもかからない腕前でした(笑)。イラストレーターさんでも「幼少期から絵を描いていました」とか「ちっちゃい頃から絵が上手いと言われていました」という方がすごく多いじゃないですか。
当時の予備校にも、入ったばかりの10代の高校生で、めちゃくちゃ絵が上手い人がたくさんいました。自分はその分、遅れて始めているので、彼らにデッサンで全く勝てなかったんです。すごく下手くそな絵を、1人でずっと描いている。そんな時期が長くありました。
そこで、「絵が上手くない人間が、画面表現の中で価値を持たせるにはどうしたらいいのか?」ということを死ぬ気で考えましたね。

————そこで、合理的な戦い方を分析したんですね。
はい。美大受験には「デッサン」と「色彩構成」などがあるんですが、自分はデッサンは絶望的でも、色彩構成の方にはセンスがあったらしくて。
経験豊富な芸大生よりも、自分の方が予備校で良い評価をもらえたりしたんです。そこで、自分はデッサンで勝負するのではなく、色彩構成の方向に標準を合わせようと決めました。
当時の決意は、今の自分の色数を絞ったデフォルメ化・抽象化された表現のルーツにもなっています。

————自分の武器を最大化したんですね。美術系の予備校では、作品が「上段・中段・下段」とランク付けされて並べられるプレッシャーが凄まじいですよね。
自分の場合は、性格的に他の人のことをあまり考えないタイプなので、受験のプレッシャーは全然感じていませんでした。
描くこと自体が楽しいし、「そもそも普通の人と同じルートを歩んでこなかったんだから、ある程度年齢が経ってから絵を描き始めたやつが、そんなに上手いわけがないだろう」と、自分に対してある種冷めた目線を持っていたんです。
「むしろこれでトントン拍子で受かって作家にでもなっちゃったら、そっちの方が逆に怖くないか?」くらいに思っていて。すると本当に1年の予備校通いで、現役合格してしまったんです。今の創作活動もうまくいっているからこそ、崩れてしまったら怖いなと思う感覚はずっと残っています。

画集のクリエイターをEXCEL化して徹底分析。共通項を模索する
————P1PEさんが影響を受けたり、注目しているクリエイターさんはいらっしゃいますか?
ここで語り尽くせないくらいに、好きなクリエイターさんはたくさんいます。自分は色々考えたり分析したりするのが好きなので、Xで色々なクリエイターさんを見ては、自分で勝手に資料として分類したりもしていました。
ちょっと怖い話に聞こえるかもしれないですが、『ILLUSTRATION』という画集に載っているクリエイターさんを、全員自分で分析したことがあって。
Excelを使って「この人はこの頃から作家活動をしていて、この時期にアカウントを開設して、こういう経歴を経てこういうジャンルを描いている」というのを一つのデータにまとめて、共通項を探ったんです。

https://www.shoeisha.co.jp/book/campaign/ILST2025
————画集に載っているクリエイターを全員Excelで分析したんですか!?
幼い頃から絵を描き続けてきた人間ではないので、知識や情報という部分に関して、人一倍吸収したいという危機感がずっとありました。後から参入したからこそ、情報はたくさん取り入れたい一心で、分析は続けています。

————膨大なデータの中で、「自分が惹かれるクリエイター」の共通点は見つかりましたか?
自分の場合は、画面表現として「あまり見たことがないもの」が好きでした。
名前を挙げるとしたら、映像作家の「葛飾出身」さんです。Xで毎日の日記を映像作品として投稿されているのですが、やっていること自体が見たことのない形式ばかりですし、映像もレトロで美しく、自分の目にすごく新鮮に映りました。
さらに、ご自身の自画像キャラクターもこれまたユニークで面白いんです。全体的に「見たことのないものの組み合わせ」だらけで構成されている作家さんで、一目でその人だとわかる唯一無二さにすごく憧れます。
————分析力と情報収集力が凄まじすぎます……。P1PEさんは現在学生とのことですが、クライアントワークやゲーム開発に着手する時間管理はどのようにされているんですか?
時間管理に関しては、自分の場合は完全に脳筋思考なんです。全然スマートに気をつけたりせずに、ただ単に「他の人より圧倒的に長い時間をやる」というパワープレイですね。
ゲームと一緒で、現実でも、最も時間を投下した奴が勝つと信じているんです。序盤からずっと鍛錬を繰り返して、ひたすら時間を投下して自分の能力値を高めてカンストさせておけば、後のステージでは絶対に楽ができるじゃないですか。だから、効率ももちろん考えますが、まずはベースとして「作業時間をずっと長く持つ」ということを考えています。
ご飯を食べたり、仕事の制作をしたり、大学の課題をやる以外の「空いた時間」は、基本的にすべて制作に注ぎ込んでいますね。暇な時間に優先度の低いことをやるくらいなら、制作をして能力値を上げておこう、という感覚です。

————「序盤に行動を繰り返して能力値を上げる」。ゲーム開発にも通じる、完璧すぎる人生の生存戦略ですね……!私も見習わなければいけません。最後に、今後の展望をお聞かせください。
自分はイラストレーターだけでなく映像作家としても活動しているので、連続して動くイラストの塊である「ゲーム」という媒体は、映像表現を組み込みやすくて非常にシナジーがあると感じています。一方で、実際に制作してみると、「ゲームのように見えるもの」と「ゲームとして成立しているもの」はまったく別物だと痛感しました。
もともとゲームが好きで、ゲーム開発にも以前から興味がありました。ただ、イラストレーターや他分野のクリエイターがゲーム制作に挑戦しても、さまざまな理由で完成までたどり着けず、途中で頓挫してしまうケースも少なくありません。
自分自身で挑戦してみたからこそ、ゲーム開発は忍耐と情熱が必要なものづくりだと実感しています。
だからこそ、ゲーム制作を決して軽く考えず、SNSでの注目に流されることなく、まずは一つの作品として完成させることを目標に取り組んでいきたいです。
