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自分の才能を信じているから挫折しない——『だめっ子みーちゃん』作者・棉きのしの成功哲学

2024.07.09
  • 鈴木 樺恋

  • オバラ ミツフミ

  • 本人提供

目次
INFORMATION
イラストレーター / 漫画家
綿きのし
キャラクターデザインやアパレルのデザインなどしています。Vtuberのグッズイラストなど。かわいい女の子が少し寂しそうな感じのイラストを描くのが好きです。淡い水色やピンク色。サブカルが好きな層と外国の方がよく見てくれています。ミニキャラなども描きます。かわいい、Kawaiiが得意です。

挫折は“成功のスパイス”です

どうして私だけ、できないんだろう……。


他人と自分を比べて、苦しくなったり、悲しくなったりした経験が、きっとみなさんにもあるはずです。


ましてや、SNSが普及して、誰もが発信者になれる時代です。いろんな人の「できる」を目にする機会が格段に増えています。


たくさんの才能が視界に飛び込んできて、成功の階段を駆け上がっていく姿が目に入るからこそ、私たちの生活のそばには焦燥感や劣等感が付きまとうのです。


誰しもが一度は感じたであろうこの気持ちを、イジメという重苦しいテーマながら軽やかに描いた作品『だめっ子みーちゃん』をご存知でしょうか。2022年に公開されてから、現在まで多くの方に愛され続けています。


時間が経過しても人々の手に渡り続ける理由は、実体験をもとに生み出された「たったひとつの共感」です。主人公・みーちゃんと自分の共通部分を見つけてしまうことで、思わず作品に引き込まれてしまいます。


作品のテイストから想像するに、作者の棉きのしさんには重苦しい過去があるのか……と思いきや、話を聞いてみると性格は快活そのもの。「いつか評価されると思っていた」と語る棉さんの口調からは、厳しい世界を生き抜く成功の方程式が見えてきました。


『だめっ子みーちゃん』の知られざる制作秘話から、夢を掴む自分を信じ続けたクリエイター人生まで。棉きのしさんの“ふであと”を辿っていきます。

みーちゃんは怪獣になる予定だった

──── 2022年に公開された漫画『だめっ子みーちゃん』が、今もなお根強い人気を博していますね。

 

公開当時から予想を超える反響をいただけて、とても嬉しいです。この作品がきっかけで私を知っていただいた方も、多いのではないでしょうか。

 

実は『だめっ子みーちゃん』は、掲載に至るまで何度も変更があった作品です。私の「描きたい」という気持ちと、作品を見る人の気持ちを理解した担当編集者さんの意見を何度も擦り合わせ、やっとの思いで完成させられました。

 

はじめの構想段階では、主人公の「みーちゃん」は、人間ですらなかったんです。

 

──── 人間ではない……というと?

 

『だめっ子みーちゃん』の原点は、ネタ帳に書き記していた「怪獣の女の子」の話です。「人間の群れで馴染めない怪獣」というのが、もともと考えていたテーマでした。

 

ただ、「人間の群れにいる怪獣」を読切で表現するには、ページがあまりにも足りません。

 

より読みやすく、物語に入り込めるようブラッシュアップを重ねて生まれたのが、「学校でのイジメ」という設定だったのです。

 

──── 周囲に馴染めない怪獣の存在を、「学校でのイジメ」で表現したのですね。

 

設定が決まったからといって、スムーズに描き始められたわけではなくて……。当初の主人公は、「みーちゃん」ではなく「学校の先生」でした。

 

イジメをテーマにした作品は山のようにあるので、これまでとは一味違うものを描きたかったんです。「先生が助けないイジメ漫画」として考えていました。

 

ところが、いざ担当編集者さんに提案してみると、「先生なら助けるべきだよね」と言われてしまって……。たしかにその通りです。

 

助けても、助けなくてもいい立場で、みーちゃんに変化を与える人物をつくりたい。そんな発想から、後輩の「みけくん」が誕生しました。

 

ただ、「みけくん」が主人公だと、それこそ本当に「関わる必要性がない」物語で終わってしまいます。だから、救世主がいない世界で「みーちゃん」が何を見るのかを、主軸のストーリーとして展開することになりました。

 

たくさんの方に『だめっ子みーちゃん』を読んでいただけているのは、苦労しながら何度もブラッシュアップを重ねたからなのかな、と思っています。

99個の不思議と、たった1つの共感

──── 私は作品の大ファンです。「みーちゃん」は不思議な行動をしているのに、なぜか感情移入してしまうところが魅力だと感じています。

 

『だめっ子みーちゃん』には、自分が経験した、つらかった出来事を盛り込みました。自分の引き出し以外にも、友だちに聞いた嫌だった経験も取り入れています。

 

感情移入してくださったのには、リアルな経験を反映した背景が関係しているのかもしれません。

 

たとえば、「嫌いにならないでほしい」って、誰しも一度は思うものだと思います。でも、それを声に出してはなかなか言えないし、声に出せないうちに心の奥底にしまってしまいますよね。

 

「みーちゃん」の行動が99個理解できなかったとしても、たった1つの行動に共感できたら、その瞬間に読者と「みーちゃん」の距離がすごく近くなると思うんです。

 

人によって性格は違うし、生きてきた過去が違うからこそ、すべての人に共感してもらうのは難しい。だからこそ、リアルな経験を取り入れることで、誰もが「他人事では見れない」物語にすることを意識していました。

 

──── この物語を通して伝えたかったメッセージも気になります。

 

「自分が変わらないと世界の見え方も変わらない」ということです。

 

「みーちゃん」にとってキーマンとなる「みけくん」は、「みーちゃん」に直接手を差し伸べているわけではありません。「みーちゃん」は、「みけくん」の考え方を通して、「自分らしくいていい」という1つの答えを導き出しています。

 

イジメ漫画だけど、イジメがなくなったり、イジメっ子が成敗されることはない。

 

私は『だめっ子みーちゃん』を、ただただ「みーちゃん」の内面にフォーカスした作品として描きました。

 

読切では「答えを見つけるシーン」で物語が終わりますが、「みーちゃん」の人生はまだまだ続いていきます。むしろ、そこがスタート地点です。

 

自分の核を見つけた「みーちゃん」は、この先でもさまざまな出来事に直面します。そこでまた「みーちゃん」なりの答えを見つけることで、「みーちゃん」の人生は開けていくんです。

 

「みーちゃん」が、人生を変える1つの答えを「みけくん」から得たように、みなさんにとってこの作品が、自分を変えるきっかけになればと思っています。

プロ視点で見る、漫画家とイラストレーターの違い

──── 棉さんの活動についても教えてください!現在漫画家とイラストレーターの二足の草鞋を履かれていますが、これからも2つの職業を両立されていくのでしょうか。

 

もともと漫画家になることを目指していたので、生涯の仕事は漫画家だと思っています。

 

漫画家になることは幼い頃からの夢でしたし、学生時代も漫画漬けの日々を送っていました。SNSを使ったり、作品を持ち込んだり、どうにかして漫画家になる手段を探した結果、やっと手に入れられた仕事だからです。

 

イラストレーターになったのは、漫画家を目指す過程で声をかけていただいたのがきっかけでした。絵を描くことそのものは好きでしたから、どちらかといえば、仕事というより趣味の延長線上にあった職業という認識をしています。

 

ただ、イラストレーターとして活動を始めたことは、漫画家としての私を大きく成長させる経験になりました。それまでは自分のために絵を描いていたので、人のために描くという体験が、とても新鮮だったのです。

 

「こんなふうに描いたら、喜んでもらえるかな?」と、イラストの向こうに人を想像して描くのは、イラストレーターを始めなければ得られない経験でした。描き方の幅が広がったので、引き出しが増えたと思います。

 

──── 漫画家「棉きのし」とイラストレーター「棉きのし」では、意識的に違いを出しているのでしょうか。

 

漫画家としてはキャラクターを、イラストレーターとしては絵を覚えてもらうことが大事だと思っています。イラストレーターとしては、自身の「ブランド化」をすごく意識しているかもしれません。

 

──── ブランド化……というと?

 

イラストを見た瞬間に「棉きのし」だと認識してもらうようにするということです。

 

そのために、イラストで登場している人物の顔や表情は、すべて同じものにしています。ぜひ私のイラストを見てほしいのですが、みんな目がクリクリしていて、口がチュンとしている、お人形さんのような顔なんですよね。

 

私のなかでは、この姿が一番「かわいい」を表現できると思っていて。

 

私の思う一番の「かわいい」を出し続ければ、みなさんにも分かりやすく私の魅力をお伝えできるかなと思い、狙って同じものを描くようにしています。

 

逆に、漫画ではキャラ一人ひとりを覚えてもらえるようにしています。『だめっ子みーちゃん』では、「みーちゃん」はたれ目、「みけくん」はつり目といった、明確な違いを描いていました。

 

──── 職業によって、顔を使い分けられているんですね!共通点として、棉さんのタッチはかわいらしさが特徴的ですが、影響を受けた作品や作家さんはいらっしゃいますか。

 

昭和の少女漫画に影響を受けています。デフォルメが効いてるのに線が綺麗で、とてもバランスの取れたかわいらしさがあるんですよね。

 

ただ、昭和漫画の完全再現では面白くないので、昭和っぽいキラキラ感は残しつつ、令和のスタイリッシュさも融合させた、自分だけのスタイルを研究しました。

 

たとえば、瞳。

 

私は瞳の中を描き込んでいて、くりっとした印象にしているのですが、これは昭和漫画から着想を得ています。ただ、サイズ感は令和のトレンドに合わせ、リアルよりな小さいサイズに設定しています。

 

漫画でもイラストでも、私にしか描けない「かわいい」を追求しているんです。

評価されない今も、成功へのスパイス

──── 漫画家を目指しながらイラストも描き続ける日々のなかで、描くことがしんどくなってしまうときはありませんか。

 

描くことをしんどいと感じた瞬間は、あまりありません。もちろん、作品を持ち込んでボツになってしまったり、担当編集者さんとうまくいかなかったりと、その場その場で苦しい瞬間はありました。

 

でも、そこで折れている場合ではなくて。

 

漫画は、自分だけの力でどうにかなるものではないんです。自分の描きたい漫画と、編集さんの描きたい漫画が合致したうえで、それが雑誌が載せたい漫画にならなければ、スタート地点にも立てませんから。

 

自分の夢が決して易しい道のりでないことがわかっているからこそ、一つの出来事に一喜一憂せず、挫折してもすぐに次へと切り替えるようにしているんです。

 

──── 挫折からすぐに立ち上がるのは難しいことだと思うのですが、前を向くモチベーションになっているものはなんですか?

 

「自分のつくるものは、おもしろい」という絶対的な自信があるんです。空元気だと思われるかもしれませんが、なぜか昔から自信だけはあって、挑戦する背中をずっと押してくれています。

 

「自分はいつか評価されるし、絶対に私の時代がくる」——。そう信じているから、その瞬間は評価されなくても、どうってことないんです。「挫折は成功のスパイスだ」と思って、突き進んできました。

 

「現実を見ていない」と言われればそれまででしょうが、悲観して立ち止まるより、ずっと有意義だと思っています。

 

──── 棉さんのメンタリティーは、どんな仕事にも大切なものですね…!これから漫画家としてのさらなる成功を目指す棉さんが、思い描いている未来も気になります。

 

まずは、連載を持つことです。

 

自己肯定感の低い人が、あることをきっかけに自己肯定感を高められたというストーリーが昔から好きなので、自分が好きなテーマで納得いく人間ドラマを描けたら嬉しいです。

 

少しずつ夢は形になってきていますが、まだまだ。夢を夢で終わらせないためにも、「絶対に私の時代がくる」と信じて、これからも描き続けていきます。

 

──── 最後に、同じ漫画家やイラストレーターを目指す方へ、メッセージをお願いします。

 

やっぱり、続けることが大切だと思います。

 

成功するために、夢を叶えるために描いていると思うので、失敗する未来を想像する必要はありません。今は評価されなくても、いつかは評価されるとポジティブな未来を夢想しましょう。

 

挫折するなとも、思い悩むなとも言いません。ただ、立ち止まるのは時間の無駄なので、挫折は成功へのスパイスだと思って、次に進むためのヒントを探しましょう。すると、挫折は前進するためのステップに変わります。

 

たくさん悩んで、たくさん挑戦したあなたが選ぶ道は、これからもきっと正しい。自信をもって描き続けてください。


鈴木 樺恋

『でみたす!』プロジェクトマネージャー・編集者。コンテンツの企画・製作を担当。画塾で絵を学んだ経験から、「描く側のニーズも満たすコンテンツづくり」を目指しています。

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